絲山秋子「海の仙人」を読む

 昔から感想文というものがかなり苦手だった。自分の考えたことや極めて個人的な感傷を外に出力する回路がおれの脳にはなかった。今でもそれは変わらないが、最近になって読んだ本の内容を忘れることが続いてるのでこれは良くないと思い、感想をつけることにした。

海の仙人 (新潮文庫)

海の仙人 (新潮文庫)

 

 宝くじに当たった河野は仕事をやめ、敦賀に引っ越し静かな生活をしている。そこに謎の男、ファンタジーが現れて河野のもとに居候として住むようになる。というところから始まる。

あっけらかんとした性格の同僚の片桐を始めとして登場人物が魅力的で、全体的に漂うひんやりとした空気感が心地よかった。不穏なことがいくつも起こるが、不思議と重苦しさは感じなかった。

 

結局ファンタジーが何者だったのかは最後まで明かされない。正体が何であるかを考えるのは野暮かもしれないが、孤独の神であるというのが一番しっくりくる。

ファンタジーはただそこに存在するだけの神で願いを叶えてくれるわけでもなければ、問題解決の助けとなることもない。

孤独とは他人で埋めるものではなく、自分独りで対処するべき最低限の荷物である。

それに向き合うことを決めた人間の前に現れるのが孤独の神なのだ。

 

久しぶりに爽やかな読後感のあるいい小説を読むことができた。